2023年9月28日
【Interview#03】世界を拡げる小さな一歩目を、どこからでも。「あしたの寺子屋」が提供する、北海道での越境プログラム

嶋本勇介さん

 

「すべての地域の子どもが生きた教育を受けられる居場所をつくる」をビジョンに掲げる、株式会社あしたの寺子屋。北海道を拠点に、住んでいる地域や年齢を超えて学び合えるコミュニティやプログラムを提供してきました。

 

「みらたび」のパートナーとして最初に提供するプログラムの開催地は、自然豊かな環境が広がる北海道の鹿追町(しかおいちょう)。十勝の大自然と雄大な農村風景の中で、自然環境を作り出す仕組みや恵みの秋をもたらす食について、実際に自分の目で見て、感じて、体験しながら理解を深める体験型の3泊4日の学びの旅のプログラムです。

 

「【北海道鹿追町】おいしく、たのしく、まなぶ!北海道の豊かな自然・ジオパークで食やいのちについて学ぶ3泊4日の旅」

<今回の応募は締め切りました>

 

北海道鹿追町

 

これまでの取り組みやプロジェクトへの思いについて、株式会社あしたの寺子屋代表取締役社長の嶋本勇介さんに伺いました。

 

 

 

どこに住んでいても、一歩を踏み出せるように

 

 

—— 教育に関わるようになったきっかけを教えてください。

 

父と祖父の影響です。私は、北海道札幌市で生まれ育ったのですが、父は小学校の教員でしたし、祖父も校長をしていたことがあり、自然と教育の道に進むことを意識するようになりました。大学時代は教職課程を取りながら、4年間、塾講師のアルバイトをしたのですが、その経験を通して、学校以外の場所で子どもがいろんな大人と関われるような居場所をつくりたいと思うようになりました。とは言え、どのようにつくれば良いのかが全くわからなかったので、大学卒業後は北海道を離れ、経営コンサルティングの会社に就職しました。

 

4年後、教育にアプローチしようと北海道に戻ってきたタイミングで、地域・教育魅力化プラットフォーム(以下CPF)の岩本悠さんや尾田洋平さんに出会いました。当時はちょうど新型コロナウイルスが流行し始めた頃で、学校での学びが止まってしまった高校生に対して何かできないかと思い、高校生と大学生がオンラインで交流できるような場を一緒につくっていきました。

 

—— そこから、なぜ「株式会社あしたの寺子屋」を設立しようと?

 

オンラインでの交流の場づくりを続けていく中で、3,000人くらいの高校生が使ってくれるようになりました。ただ、そのデータを見てみると、利用しているのが都会の高校生ばかりだということに気づいたんです。

 

「オンラインで入れるはずなのに、なぜこんなに偏りがあるんだろう?」そう思って、教育関連事業の営業をしている知人に聞いてみると、「営業コストもマーケティングコストも、人がいるところにかけるのは当たり前だよ」と言われました。確かに、ビジネスの観点で見るとそうなんです。でもそうなると、中山間地域や離島など、中高生が少ない地域にはサービスが届かないことになります。教育格差は、どんどん広がってしまう。

 

世界を広げたいと思った子どもが、どこからでも一歩を踏み出せるような社会をつくりたい。そう思って、2020年10 月に「株式会社 あしたの寺子屋」を設立しました。現在、放課後の日常的な子どもの居場所としての「寺子屋」は16拠点、非日常的に世界を拡げるサマースクールのような「まなび場」は北海道9町村にて展開しております。

 

—— 今回、なぜ「地域みらい旅」と協働しようと思われたのでしょうか。

 

CPFさんは、都市部に住んでいる高校生に対して、都道府県を超えた国内留学のサポートをしていますよね。留学をする高校生だけではなく、留学生を受け入れた地域の学校の生徒にとっても、新たな刺激を受けられる経験になる。どんな場所に住んでいる子どもでも、世界を広げる一歩を踏み出すチャンスがある。それをサポートする事業として、CPFさんの取り組みと弊社の取り組みは、共通する部分があると思っています。

 

少子化の影響で参加者を集めることが難しくなっている現状もありますので、思いを共有できる仲間と一緒に協力し合って、多くの人にプログラムを知ってもらうアプローチをしたり、それぞれのプログラムを連携させることで、一緒に子どもたちの選択肢を増やしていきたいと思い、パートナーとして参画することにしました。

 

 

 

越境で価値観を相対化させる経験を

 

 

—— 「地域みらい旅」の中では、どのようなプログラムを提供していこうと考えていますか?

 

弊社がこれまでに展開してきた「シャッフルキャンプ」というプログラムをベースにしたいと思っています。

株式会社あしたの寺子屋2022’s Annual Report​​より

 

「シャッフルキャンプ」は、名前の通りさまざまな背景や年齢の人たちが集まって、バーベキューや自然体験をするプログラムです。一般的な学習プログラムと違うのは、ただ楽しむだけではなく、最後にアウトプットの時間があることです。去年のプログラムでは、家族や友人に送りたい言葉を添えたポストカードを作ったり、現地でお世話になった方を招待する晩餐会の企画運営などをしました。

 

参加した中高生の声を聞くと、「自分が住んでいる地域と違って自然が多く、心が休まった」「都会から来た子と田舎から来た子の、ものの見方が違って驚いた」「違うところに住んでいる人でも、自分とそんなに変わらないと思った」など、さまざまな感想がありました。越境することで、“自分が見ている世界”と“それ以外の世界”を比べることで、価値観を相対化することができたのではないかなと思います。

 

「地域みらい旅」の中でも、越境することで世界を広げ、新たな自分と出会えるようなプログラムをつくっていければと思っています。

 

 

 

自分が見ている世界を広げる“旅”

 

—— 嶋本さんにとって”旅”とは?ご自身は、過去の体験で価値観が相対化されたと感じたことはありますか?

 

うーん。実はあまり”旅”はしないのですが・・・。価値観が相対化された経験はもちろんありますね。前職で家電メーカーのコンサルティングを担当していたとき、印象的な出来事がありました。

 

その会社の工場では、洗濯機のドアを取り付ける作業をしていました。この作業は自動ではなく、手動でやるんです。ベルトコンベアの横に作業員が並んで、流れてくるドアをはめて横に流す作業をひたすら繰り返す。それぞれの作業時間は細かく決められていて、0.5秒の遅れが3回続くとアラートが鳴るんです。作業員のシフトも全てAIで組まれていました。要は、デジタル最適化が行われていたんです。

 

その現場を見て最も驚いたのは、作業員の人たちがみんな幸せそうだったことです。昼休みには美味しいものを食べたりテニスをして遊んだりしていました。これもその現場で働く人たちにとっては良い生活なのかもしれない。そう思ったときに、「やりたいことを仕事にする」というのが自分の仕事観として強かったのですが、仕事の内容以外にも自分が幸せに生きるための仕事観があるのだと気づきました。

 

価値観って、相対的なものなんだと感じた体験でした。そういう意味では、その体験は私にとっての“旅”だったのかもしれません。

 

 

—— 最後に、「地域みらい旅」のプログラムに興味を持っている中高生にメッセージをいただけますか?

 

北海道は、海が綺麗で食べ物も美味しい。夜は綺麗な星空が見えます。実際に来てみることで、今までとは違った世界が見えたり、自分の価値観が変わったりすることがあるかもしれません。

 

明確な目的がなくても、「楽しそう!」と感じたのであれば、ぜひ来てみてほしいですね。最初の動機はそれくらいで十分と思っています!

 

 

(インタビュー・執筆 建石尚子)

「たくさんの人のみらいにつながる、
豊かな旅を。」
-みらたびを運営する人たち-


みらたびの運営主体である、地域・教育魅力化プラットフォームは、「意志ある若者にあふれる持続可能な地域・社会をつくる」をビジョンに掲げ、高校3年間の「地域みらい留学」や高校2年生の1年間の「地域みらい留学365」も運営しています。